蚊帳吊り狸

 クリスマスイブだからって、何か特別なことをすると思ったら大間違いだぜ!
 治郎兵衛屋敷のヤツがまだ完成してなくても、次のを考えちゃうんだぜ、俺は。

○資料
 夜中に徳島の某所の寂しいところを通ると、道の真ん中に吊ってある 蚊帳をくぐらないと先には進めない くぐってみると先には別の蚊帳 またそれをくぐるとさらに別の蚊帳というようにいくら行ってもきりがない 戻ろうとしてもまた無数の蚊帳が吊ってある こうしてもとの場所に戻ることも出来なくなり、一晩中その場所をうろうろすることになる よく心を落ち着かせて、丹田に力を入れ、蚊帳をくぐっていけば、ちょうど36枚目に脱出できる
 憑物百怪 蚊帳吊り狸



「だから四国には来たくなかったんだ」

 俺は、木に背を預けて眠っていた。
 そうしてしばらくして、すっきりした気分で目を開くと、信じられない光景が広がっていた。
 
 目の前には、どこから吊るしてあるのかもわからないほど大きな蚊帳―――蚊を防ぐあの網―――が吊るされていた。誰の仕業か、なんて考えるまでもない。四国でこんな馬鹿げたことをするのは狸ぐらいしかいない。
 四国に飛んだ殺生石の情報を集めようと思って、人間に化けたらこれだ。奴らは人間と妖怪の区別もつかないのか、それとも俺の変化が完璧すぎるのか。

「なんにしても、迷惑な話だよなあ」

 確かこの蚊帳からまともに出ようとしても、出られないと聞く。体のどこかに力を入れて蚊帳をくぐっていけば、何十何枚目かには出られるとかいう話だったはずだが、よく覚えていない。狸のことは、まっさきに記憶から抜け落ちていくようになっているのだ。俺の頭は、生まれつきそういう風にできているのだ。しかし今はその仕組みが恨めしかった。

「朝まで狸の掌の上なんて、冗談じゃねえぜ」

 なんとかして思い出そうとした。頭の端から端までひっくり返して、思い出したことは木の枝で地面に記録していった。
 数時間後、作業が終わったときには、えもいわれぬ達成感さえ覚えた。
 地面には、これまでの金の貸借記録が完成していた。いつ、誰に、いくら貸して、今いくら返ってきているのかが一目瞭然だった。

「猫又の野郎、会うたんびに今度返す、今度返すって言って、結局一回も返しちゃいねえじゃねえか。しかもなんだこの額。ふざけやがって。今度会ったら問答無用で"差し押さえ"だ」

 (中略)

「なんだってんだ! ちっとも出れねえじゃねえか!」

 むかっ腹が立って仕方がなかった。もうどこに力を入れるとか、何枚目だとか考えるのも面倒だった。蚊帳を引きちぎるようにしてずんずん進んでいった。けれども次々と蚊帳が現れる。いっそ森ごと狐火で燃やしてやろうかとさえ思った。
 腸を煮えくり返らせながら何十何枚目かの蚊帳をくぐると、とうとう次の蚊帳がなくなった。外に出られたらしい。
 振り向くと、蚊帳は消えていた。
 代わりに狸が一匹、こっそりと逃げ出そうとしているのがいた。見逃してやるはずもない。

「どこへ行くんだい。狸くん?」

 俺が優しく声をかけると、狸は垂直に跳ね上がった。そうしてこちらを向き、目にも留まらぬ速さで土下座した。

「すまねえっす! 出来心だったっす! こんなとこ、人なんて滅多にこねえもんだから、つい調子にのっちまったっす! ほんと、すんませんっした! もうしねえっす! いぬがみぎょーぶさまにちかうっす! だからかんべんしてくだせえ!」

 顔を地面にこすり付け、涙ながらに狸は言った。
 ひどく哀れみを誘う姿だった。俺はゆっくりと狸に近づき、その頭を踏み潰した。

「隠神刑部の名さえ出さなきゃ、金で話をつけてやらねえこともなかったんだがなあ。その名を聞いちまったら、引き下がるわけにゃいかねえ。狸なんぞに下ったとあっちゃ、白面金毛九尾の名がすたるんだよ」
「ぐ、ぐるじいっすー! ああ!? よく見りゃアンタは玉藻の―――!」

 狸が忌まわしい名を口に出そうとしたので阻止した。狸の丈だけ背が高くなった。

「重いっす! どくっす! このままじゃ死んじまうっす!」
「あら。正面きって女に"老けた"とか"重い"とか言うような男、死んで正解だと思うわよ」

 俺がそう言うと、狸は、
「アンタ、女だったんすか。とてもそうは見えねっす」
 と、ひどく驚いたようだった。

「でしょうねえ。だって…………」

 俺は岩に変化して、狸を押し潰した。

「俺、男だもんよ。死んじまえ、ちょこざいな狸。安心しなァ。隠神クソ狸も、あとでそっちに送ってやるからよ」
「潰れてる! 潰れてるっす! やばいっすやばいっす何か出るっす出たら死ぬっす死にたくないっすーっ!」
 
 切ない叫びだった。俺はさらに重量を増やした。狸は断末魔の叫びを上げ、それきり動かなくなった。

「やったか?」

 変化を解いて、狸を見てみた。死んでいるように見えた。
 晴れ晴れとした気持ちだった。
 ふと地面を見てみると、何か書いてあった。汚い字だったが、かろうじて『玉藻の前』と読めた。
 人間に化けて、狸をつまみ上げた。よくよく見ると、腹がかすかに動いていた。

 俺は狸を木に叩きつけた。

「ふざけた真似してんじゃねえー!」

 狸は悲鳴を上げた。

「お、おいらの狸寝入りの術を見破るとは、なかなかやるっすね……」 
「なァーにが狸寝入りだ。ただの死んだふりじゃねえか。 いまどきそんなの、熊でもひっかからねえよ!」




 なんだこのカオス展開。

 妖狐の詳細な設定作った。あと電子辞書をゲットした。ので、話が作りやすくなった。かもしれない。


文章関係 | コメント(0) | トラックバック(0)2008/12/24(水)20:30

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